発達障害と療育
脳の発達と障害児の行動
発達障害児の療育を行う上で、脳の発達の道筋を知ることは大変重要です。
子どもの行動を脳の活動水準と照らし合わせてみていくと、困った行動の原因や対応法が明らかになってきます。
出典:羽生裕子「脳の発達と障害児の行動」発達プログラム113号 コロロ発達療育センター 2009年脳の発達メカニズムとその特徴
1.発達は、下位脳(上記脳図 ①脳幹 ②大脳辺縁系)から始まり、上位脳(③大脳新皮質)へと進みます。
新生児期、「大脳新皮質(上位脳)」はまだ神経回路ができておらず、生命維持に必要な脳幹(下位脳)」が動いているだけです。
この段階では、おっぱいを吸う「吸いつき反射」や手のひらに触れたものを握る「把握反射」などの「原始反射」や周期的な身ぶるいなどの持って生まれた「本能行動」がみられます。
2.上位脳が下位脳をコントロールします。
体の各器官から入力されてくる情報は、上位脳である大脳新皮質(特に前頭前野)に集められ、統合されて、目的行動がとれるよう指令が出されます。
上位脳から指令が出ると、目的に合わない行動は抑制されます。
大脳新皮質の発達が遅れている場合、またはうまく機能しないと、上位脳のコントロールを外れた、下位脳で司られる行動が出てきてしまいます。
歩いているのに、突然に目に入った物に突進する反射的な超速行動や、作業をしている途中でも周期的に手たたきするなどの常同行動がそれにあたります。
発達を促すには、目的行動、適応同行を促すことで上位脳を働かせることと、常同行動や反射的行動などの下位脳レベルの行動を減らすことの両方が必要です。
3.発達に伴い、脳の中に役割分担ができていきます。(脳の機能分化)
原始反射
原始反射
原始反射とは、赤ちゃんが刺激に対して反射的に起こす動きのことです。
赤ちゃんは脳の発達が未熟なため、原始反射によって生命を維持し、発達を促していると考えられています。
原始反射には、
- お母さんのおっぱいを吸う(吸てつ反射)
- 手のひらに物が触れると握りこむ(把握反射)
- 足裏を踵からつま先に向かってこすると親指が反り他の4本指がひらく(バビンスキー反射)
など、様々な種類があります。
吸てつ反射をくり返すことで、赤ちゃんはおっぱいの飲み方を覚えていきます。
また、把握反射をくり返すことで、自力で物を握ることを覚えます。
バビンスキー反射は、直立二足歩行を獲得するために必要な反射と考えられています。
このようにして、反射によって無意識に動いていた体を、自分の力で動かすことができるようになっていくのです。
これを「行動の組み替え」と呼びます。
行動の組み替え
行動の組み替えは、大脳新皮質が機能し、原始反射を抑制消失することによって起こります。
原始反射は、生後6~12ヵ月の間に消失しますが、発達障害があると行動の組み替えが上手くいかず、原始反射が残ってしまうことがあります。
例えば、吸てつ反射が残ってしまった場合は、ちびちび食べや偏食、丸飲みなどの行動としてあらわれます。
把握反射が残ってしまうと、手をつなぎ続けていられない・握った物を放せない等の行動が見られます。
バビンスキー反射が残っていると、じっと立っていられなかったり、歩くと小走りになってしまいます。
年齢が高い方でも、知的レベルが高い方でも、この反射が残っていることがあります。
反射は、刺激に対する体の「反応」です。意思や感情とは無関係に起こります。
例えば、バビンスキー反射が残っていると「授業中、本当はじっとしていたいのに、足が勝手に動いて歩き回ってしまう」「本当は皆と一緒にゆっくり歩きたいのに、小走りになってしまう」という現象が起こるのです。
反射の抑制
このように、反射が原因で日常生活に不具合を起こしてしまう事例は数多くあります。
これらの反射が抑制されなければ、「じっと立っている」「小走りにならずに歩く」という行動は獲得されません。
じっと立つトレーニング、小走りせずに歩くトレーニングをくり返すことにより、反射は抑制され、行動の組み替えを促すことができます。
これらのトレーニングは、支援者のサポートがなければ成立しません。
そのため、コロロでは反射を抑制するためのトレーニングを毎日欠かさず行っています。
また、保護者とトレーニング方法を共有し、家庭でも実践できるよう支援しています。
コロロメソッドの早期療育では、着席注視(目と体の分化)や歩行(手と足の分化)、食行動(手と口の分化)が主要なプログラムとして組み込まれています。
お子さんが無発語の場合、親はことばの発達のみに注目しがちです。
しかし、言語発達を促すには、ことばのシャワーを浴びせることや机上学習の前に、体の機能分化を促すトレーニングが欠かせないのです。